産業革命と世界中にまたがる植民地は英国に莫大な富をもたらしました。その豊かさは英国文化の黄金期をもたらしました。シャーロック・ホームズやドラキュラ伯爵といったキャラクターが創造され、シルクハットにステッキ、優美なマナーを身に着けた英国紳士、また彼らに使える忠実な使用人が形作られたのはこの時代のことでした。ビッグベンやウェストミンスター宮殿が建造されロンドンは世界の中心として燦然と輝きました。英国はこの時代に作られたと言っても過言はありません。また、この時代の英国における文化は現代の生活にも大きな影響を与えているのです。
しかし、光が強ければ当然、闇は深くなります。工場が吐き出す煤煙は霧となりロンドンを包んでいました。「霧の都」というロンドンの別名はロマンチックなものではありませんでした。1900年から1902年までロンドンに留学していた夏目漱石の日記にはこうあります。
倫敦の街を散歩して試みに痰を吐きて見よ真黒なる塊の出るに驚くべし。
何百万の市民は此煤煙と此塵埃を吸収して毎日彼らの肺臓を染めつつあるなり。
我ながら鼻をかみ痰するときは気の引けるほど気味悪きなり。
事実、多くの人々が喘息や肺の痛み、頭の不快感に悩まされていたとあります。1873年のある週では700人を超える人々がロンドン市内で死亡し、品評会に出された牛がすべて窒息死したと伝えられています。公害問題は20世紀まで尾を引き1952年には1万人もの人を死に至らしめました。
経済も植民地や労働者の搾取を基盤としたもので、恩恵を受けたのは一部の人々でした。広がる経済格差を目の当たりにしたマルクスは資本論をロンドンで書き上げました。
ヴィクトリア朝の社会は現代と同じく複雑で奇妙です。多くの矛盾を抱えた社会で人々は悲嘆苦悩しながらも前へ進んでいきました。それらを知ることはシナリオやロールプレイに深みを与えてくれると考えています。